ユーフォニアム
理系高校生のための和音の音高調節
(2004.01.07更新)
・この文章は1998年7月に大学の「情報処理演習Ⅰ」の課題Dが「コンパイラ(LATEX)を使った文書作成。文章のほかに表と絵も入れること」ということで、大学1年の3月末に高校の後輩に「なぜ長三和音の第三音は13.7cent低くするのか」などといったことを説明するために作った文章を手直しして提出し、当初はその提出ファイルであるPSファイルのままホームページに掲載していたものの、一般の環境ではなかなかPSファイルが読めないことや、またファイル容量が3Mと非常に大きすぎるため、半年ぶりにHTMLファイルとして書き直したものです。
んでもって、楽譜がないまま00年9月からずーっとほったらかしにしてたのですが、02年3月になってようやくノーテーションソフトを手に入れたので、ようやく更新したものです。
・なお、この文章は高等学校の数学B、および物理ⅠBをほぼ履修し終わった高校2年生以上、なおかつ吹奏楽の実戦経験がある人を対象にしています。わからなかったらそのへんにいる理系の受験生か理系大学生(吹奏楽マニアであることが条件)にでも聞いてください。
※もうPSファイルは残存していません。ご了承ください。
(2004年追補)
※文章本体は1998年時点での知識と調査を元に記述しているため、一部説明不足な点があることをあらかじめご了承ください。
1.和音の説明の前に
- 音とは空気の振動である。
- 音の高さは、空気が1秒間に振動した回数で表し、その単位を[Hz](ヘルツ=周波数)とする。
- そのため、極端な例ではあるが、何か物体を1秒間に442回振動させることができれば、442HzのAの音が鳴るのである。(譜例1)
※なお、図1は442Hzの音叉を鳴らしたときの音の波を表したものである。 - 管楽器を吹く、ということは楽器のなかに一定の波を作ることである。
(その詳しい内容は物理IBの教科書「定常波」の項目を参照のこと)
2.純正律と平均律(十二平均律)
- この2つはどちらも音律(音組織や音階の相対的な音程関係を一定の理論によって数理的に規定したもの)の一種である。
- 共通することは、周波数の比が1:2となる音程を1オクターブとするということである。
2.1 純正律
(詳しくは図書室等にある、「平凡社 音楽大辞典」を参照のこと)
倍音次数 | 実音名 (独式) | 純正律周波数 [Hz] | 十二平均律周波数 [Hz] | 音の高さの差 (純正律-平均律) [CENT] |
1 | B 0 | 117.1 | 117.1 | 0 |
2 | b 0 | 234.1 | 234.1 | 0 |
3 | f 0 | 351.2 | 350.8 | +2 |
4 | b 1 | 468.3 | 468.3 | 0 |
5 | d 2 | 585.4 | 590.0 | -14 |
6 | f 2 | 702.4 | 701.6 | +2 |
7 | as 2 | 819.5 | 834.4 | -30 |
8 | b 2 | 936.6 | 936.6 | 0 |
9 | c 3 | 1054 | 1051 | +4 |
10 | d 3 | 1171 | 1180 | -14 |
11 | e 3 | 1288 | 1325 | -49 |
12 | f 3 | 1405 | 1403 | +2 |
13 | ges 3 | 1522 | 1487 | +41 |
14 | as 3 | 1638 | 1669 | -30 |
15 | a 3 | 1756 | 1768 | -12 |
16 | b 3 | 1873 | 1873 | 0 |
- ここで、[CENT]という単位がでできたが、これはオクターブを等比的に12等分したものである半音を、さらに等比的に100等分したものである。
よって、「音の高さの差」とはいっているが、実際の計算は求める値をx とすると、純正律 > 平均律のとき、x = +(log {(純正律)/(平均律)} / log a ) 純正律 < 平均律のとき、ここで、x = -(log {(平均律)/(純正律)} / log a ) ただし、logは常用対数(化学IBまたは数学B参照)a 100 = r
a = 20.0008333 ≒ 1.000578 (2の1200乗根・数学B参照)
- 1CENT高くなるごとに周波数はa 倍になる。
- 第7、11、13、14倍音は平均律とあまりにかけ離れているため、7thなどの和音を構成するとき以外は使い物にならない。
※また、9th,11thなどいわゆる「テンション」の場合、すべての音を平均率で鳴らさないとそれぞれの音の関係が狂ってきてしまうので注意。
3.和音の合わせ方
- 前にも書いたが、純正律のほうが和音が美しく響くので、平均律の楽器の音を純正律に近づける必要が出てくる。
- 例として、B♭音を根音とする一般的な三和音と四和音について、平均律からどれだけずらせば純正律と同じような響きが得られるか、その結果だけを表2にまとめた。
コードネーム | 第3音 | 第5音 | 第7音 |
B♭ | -13.7(D) | +2.0(F) | |
B♭7 | -13.7(D) | +2.0(F) | -30(A♭) |
B♭M7 | -13.7(D) | +2.0(F) | -12(A) |
B♭m | +13.7(D♭) | +2.0(F) | |
B♭m7 | +13.7(D♭) | +2.0(F) | -30(A♭) |
B♭mM7 | +13.7(D♭) | +2.0(F) | -12(A) |
- 表を見ればわかると思うが、第3音や第7音が大幅に調節するのに対し、第5音の調節は微々たるものである。このため、第5音はへたに調節しないほうがずれない。
- これ以外の和音はハーモニーディレクターを有効に使って調べること。
4.金管楽器の替え指について
- 表1はピストンやロータリーを何も押さないときの音の高さのずれであるが、1番、2番、3番、4番それぞれ単独で押したときも音の高さのずれはほぼ表1のようになるので(他は少し高くなる)、これを上手に使うと和音合わせが少し楽になることと思われる。
5.参考文献
- 平凡社「音楽大事典」
- 音楽之友社「音楽中辞典」
他