コンペンセイティング・システムについて

はじめに
1.コンペンセイティング・システムの仕組み
2.音の高さと管の長さの関係
3.おまけ
(c) 1999 Kentaro Shimoda <shimoken@shimoken.net>


はじめに

コンペンセイティングシステム(Compensating System)」、日本語では「自動補正バルブ方式」。これがどういう仕組みか、また、どうしてそのようなことをする必要性があるかご存知だろうか?たぶん知っている人は少ないだろう。マニアックだから。

でも知りたい、という準マニアな皆さんはどうやってこの世紀の大発明について調べればいいのだろうか。

私も実はその筋の専門書は読んでない。各吹奏楽誌のワンポイントレッスンや高校の物理の授業などから自分なりに解釈したまでである。したがって本文中にいろいろな数値が出てくるが、あくまで理論値であり、実際の楽器の設計にあたっては多少値が変わってくることをご了承願いたい。なぜならこの値は各メーカーの設計思想(と好み)によってさえも変わってくるからである。


1.コンペンセイティング・システムの仕組み

コンペンセイティング・システムのユーフォニアム
(独・ミラフォン製)
非コンペンセイティング・システムのユーフォニアム
(日・ヤマハ製)
左の写真はコンペンセイティング・システムのユーフォニアム(左列)とそうでないユーフォニアム(右列)である。

単純に見てわかることは、

  1. バルブケーシングの長さ及びピストンの長さが違う
  2. コンペンセイティングのほうが管が多い
  3. コンペンセイティングの4番管(F管)はもう1度1~3番ピストンを通っている
といったところだろうか。
※4番ピストンの位置が違うのはおそらくメーカーの好みだと思われる。

この中で特に重要なのが、b.の「4番管がもう一度1~3番ピストンを通っている」ということだ。また、これは楽器をバラしてみないとわからないことだが、もう1度1番ピストンに戻ってくるため、4番ピストンと他のピストンを同時に押すと楽器の裏側についている「補正管」(写真4)にも息が流れ、結果4番間をおさえた状態では他の1~3番管の長さはFバスのそれとほぼ等しくなる。

だが、なぜそのようなことをする必要性があるのか、まだわからない人もいることと思う。そこでこれから理屈で固めて説明しようと思う。


2.音の高さと管の長さの関係

※前半はかなり物理的な話になるのでわからない人はざーっと読み流すか、物理の先生にでも聞いてください。

次の式をご存知だろうか。

         v = λν      (1)

これは音や光をはじめいわゆる「波動」一般に共通する「波動方程式」である。ただし、v は波動の速度[m/s]、λは波長[m]、νは周波数[Hz](振動数[s-1])である。ここで、v は音速であるため、簡単のため340[m/s]とする。
これより、

         λ = 340÷ν    (2)
また、管の長さは(開管なので)1/2λで表されるので、よって、
(管の長さ)[m] = 170÷ν    (3)        
である。(開口端補正は無視する
物理はこれぐらいにして、B管ユーフォニアムの管の長さを考えてみよう。

表1. B管ユーフォニアムの管の長さ
押さえるピストン 管の長さ[m]
なし 2.904
3.077
3.260
3.453
3.877
もちろんここでメーカーの好みは無視し、1、2、3、4番の各ピストンをそれぞれ押したときには 平均率でA、A、G、Fになるものとし、また1 =442[Hz]とする。

(3)式に基づいて計算すると、管の長さは表1のようになり、これはコンペンセイティングであるなしにかかわらない。

ところが、4番管を押した状態で他のピストンを押すとどうだろうか。表2に非コンペンセイティング式ユーフォニアム、及びF管バスの管長を示す。

表2.ユーフォニアムとF管バスの管長
管ユーフォニアム F管バス
押さえるピストン 管の長さ[m] 押さえるピストン 管の長さ[m]
3.877 なし 3.877
4+2 4.049 4.107
4+1 4.232 4.351
4+3 4.426 4.610
表を見てわかるとおり、非コンペンセイティング式のユーフォニアムで4番+他のピストンでは管長が短く、したがって音が高くなる。

そこで、4番管を押したときには1、2、3番管が長くなるシステム1874年に英・ブージー&ホークス社のデイヴィッド・ブレークリーにより開発された。これにより管ユーフォニアムはF管バスとほぼ同じ管長の1、2、3番管を持つこととなり、結果音域が広がった。ただし、あくまで管の長さが同じになっただけで、とくに複数のピストンを同時に押さえたときなどは管が極端に曲がる個所が増えるため、音の立ち上がりは悪くなる(非コンペンセイティング式でも同じ事だが)。この音質を良くするため、ホルンのようにB/F別々の抜差管をつければいいと思うかもしれないが、そんなことをしたら楽器が非常に重くなって立奏やマーチングが困難になることだろう。

とにもかくにもこのシステムのおかげでユーフォニアムの機能やレパートリーが向上したといえよう。・・・っていうかその辺で見るオリジナルのソロ曲は簡単か非常に難しいか両極端。もっと中級者向きの曲が輸入or作曲されないだろうか・・・。
(教育用とも鑑賞用ともいかないから出回らないのだろうが)


3.おまけ

表1や表2の値は管であれば何でもかまわないので、たとえばゴムホースでも楽器と同じ高さの音が出るので、暇な人は挑戦してみてください。
なお、この際に注意としては実際の管では管の両端を管径の0.6倍の長さ分短くする必要があり、またマウスピースの長さなどもあるので、最初は長めに切って(or3mのゴムホースを買って)チューナーを見ながら微調整してください。
※ちなみに、管の長さを2倍にすると(吹きづらくなるけど)出せる音が倍に増えるので、私は約5m80cmのゴムホースを愛用(?)しています。(最近はサイレントブラスを使っていますが・・・)

(c) 1999 Kentaro Shimoda <shimoken@shimoken.net>